乳房除去、改名…「声優のアイコ」はなぜ「女装」で男を狙ったのか?
[記事ソース:産経新聞] 2014年7月27日
容疑者が逮捕されたのに一層、謎が深まった感が否めない。「声優のアイコ」による昏睡(こんすい)強盗事件で、警視庁捜査1課に7月7日に逮捕された東京都杉並区の無職、神いっき容疑者(30)は普段は男性として生活し、2年ほど前には乳房の除去手術を受けていた。神容疑者は一貫して容疑を否認を続けているが、一連の事件は手術と同時期から起きており、手術費用などで経済的に困窮したことが動機の可能性もある。なぜ、女装で着飾り、男を標的にしたのか。その複雑な本心は計り知れない。(中村翔樹、宇都宮想)
■体つきは女性も「俺は男だ」 夢は俳優、歌手
「女性の体つきなのに、『俺は男だ』と言い張っていた。その言葉が印象に残っている」
平成21年4月ごろから約半年間、杉並区内のアパートで神容疑者と同居していた男性(64)は、神容疑者との不思議な出会いをこう振り返る。
港区六本木。男性用サウナの出入り口で、「男だ」と言って店員ともめていたのが神容疑者だった。男性から話しかけて意気投合。性同一性障害と知った。しばらくして、男性が住むところに困っていると、神容疑者から「俺の所に来いよ」と誘われ、アパートに転がり込んだという。
ワンルームで、家賃は約4万円。神容疑者は新宿・歌舞伎町のホストクラブで働いており、昼前に起きて夜中に出かけるという生活だった。男性と一緒にキャバクラや居酒屋に何度も行ったが、「遊ぶカネは全部出してくれた。羽振りはよかった」という。
神容疑者は普段から話し好きだったが、酒を飲むとより冗舌になった。「いつも笑っていて楽しい思い出しかない」。ただ、俳優や歌手になるのを夢見ていたが、オーディションに落ち、落ち込むこともあったという。
捜査関係者が首をかしげるのが、今回の犯行の手口だ。警視庁が画像公開した「声優のアイコ」の犯行時の服装は、ヒョウ柄のベレー帽、ピンクとベージュ色のミニスカート、茶色いブーツ…。どこからどう見ても女性の服装だった。
男性は「心が男であるのに、女を演じるのは辛かったと思う。ターゲットに近づきやすいように我慢していたのだろう」とみる。
■被害は20件超? DNA型、公開画像が一致
「声優のアイコ」によるとみられる昏睡強盗事件は24年6月以降、文京、台東、港、渋谷、目黒、世田谷、杉並の都内7区で計十数件が確認されていた。ところが、神容疑者の逮捕後、「この女に見覚えがある」などとさらに数件の被害が届けられ、最終的には20件を超える可能性が高まっている。
新宿区内の飲食店では昨年5月、男性店員が客の女から「滋養強壮剤だから」として液体入りの瓶をすすめられ、飲み干した直後に意識を失った。男性は翌朝に意識を取り戻したが、売上金数万円が奪われていたという。男性は「睡眠薬が混ざっていたに違いない」と憤りを隠さない。
捜査関係者によると、一連の事件のうち数件で、被害男性の自宅やホテルなどに酒を飲んだコップなどが残されており、採取された微物のDNA型が神容疑者と一致した。
警視庁が公開した「声優のアイコ」の画像は昨年12月、目黒区内のマンションで30代の男性が被害に遭う直前にコンビニエンスストアで写されたものだったが、この女も神容疑者の特徴と完全に一致することが確認されたという。
捜査1課は勾留期限の7月28日にも別の強盗容疑で神容疑者を再逮捕し、全容解明を進める。
■乳房除去、改名…「無職」で生活保護
神容疑者が「男」だったことと犯行とはどう結びつくのか。
神容疑者はインターネット上のブログでも、「性同一性障害」を告白。過去に鬱病やアルコール中毒を患っていたなどとした上で、「誰に遠慮なんていらない。自分の人生、本当の自分で生きていいんだから」とつづっていた。
女性扱いされることを極端に嫌がり、24年春ごろには都内の病院で乳房の除去手術を受け、体つきも男性に近づいていった。「いっき」という名前も改名したものだという。
一方で、逮捕時には「無職」で生活保護を受給していた。2、3年前から病院で睡眠薬を処方されており、仕事ができる状態でなかったとみられる。
神容疑者の手術時期が昏睡強盗事件の発生時期と重なっており、捜査1課は「男」になるための手術費用などで経済的に困窮し、犯行に及んだ可能性があるとみている。
捜査1課の取り調べでも、自分のことを「俺」という神容疑者。捜査員も特殊な事情に配慮して男性として向き合っているが、容疑については「自分は全く関係ない」と一貫して否認し続けている。
7月9日の送検時にも報道陣のカメラに向かってピースサインをするなど、全く悪びれた様子を見せていない。捜査幹部はこういって切り捨てる。
「犯行に使われた睡眠薬は病院で処方されていたものだろう。一歩間違えれば、命に関わる凶悪な犯罪。どんな事情があったにせよ、断じて許せるものではない」
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