性同一性障害 戸籍の性別変更後に「元に戻したくなった」
「自分は性同一性障害だと考えて戸籍上の性別を変えたが、やはり適合できず元に戻したくなった。」性別変更した人が増加するにつれ、悩みを抱える人が出てきているという。
2004年7月に施行された「性同一性障害特例法」では、ある一定の条件を満たすと家裁で性別の変更が認められるようになっている。
最高裁の統計では、特例法で性別の変更が認められた人は16年までに6906人に上るという。年々増え続け、ここ数年は毎年800人以上の推移している。
しかし、性別の変更をした後の再変更は現在の法律では想定されておらず、性別を元に戻すことは法律的にも身体的にもハードルは高い。このような悩みに対して、専門家からは「何らかの救済策が必要」との声も出ている。
神奈川県茅ケ崎市の40代元男性は2003年に性別適合手術を受け、2006年7月に横浜家裁で戸籍上の性別を女性を認められた。だが、すぐに後悔に襲われたと話す。
男性だった時は簡単に見つかった仕事が、女性になってからは断られ続けた。その原因は、性別を変えたためだと感じるようになったという。現在は女性として就職しているが、会社の理解を得ながら現在は男性として働いている。
家裁に性別の再変更の申し立てを繰り返すが「訴えを認める理由がない」と退けられ続けている状態。
「精神的に不安定な状態で申し立ててしまった。このまま生きるのは非常に苦痛で何とか元の性に戻りたい」と話している。
同じく、11年に戸籍上の性別を変更した別の1人も、関西地方の家裁に今年6月、変更の取り消しを求める手続きを申し立てた。
医師の診断を受けず、自身の判断でホルモン投与や性別適合手術を受け戸籍の性別まで変えたが、現在は「生活の混乱の中で思い込み、突き進んでしまった」と強く後悔している。
法務省の担当者は「法律はそもそも再変更を想定していない。日本では性別適合手術が性別変更の要件になっており、ためらいがある人はここでブレーキがかかる」と説明。
裁判所が取り消した前例は「当事者が自身の性を誤信し、医師の診断も誤っていた」との理由で、13年7月に1件あるだけで、特例法には再変更を定めた規定はない。
大阪弁護士会の南和行弁護士は「戸籍の性別によって生活が決まる場面は多い。本人が限界だと感じているのであれば、自己責任と切って捨てるのは酷だ。取り消しを予定していなかった法の不備を、司法が救済すべきだ」と話す。
東京御茶ノ水にある「はりまメンタルクリニック」針間克己医師によると「自分の性への認識が揺らいだり、別の原因で生きづらさを感じた人が『自分は性同一性障害だ』と問題をすり替えたりする事例がある」と語り、海外では再変更の事例があるほか、国内でも再変更の希望者を5人程度は把握しているという。診断前には様々な診察を行うものの「本人が強く主張すれば、その通り診断してしまうことはあり得る。先に性別適合手術を受けてきた場合はなおさらだ」と針間医師は診断の難しさに対して指摘した。
2004年の性同一性障害特例法の施行直後に比べ、現在、性別は容易に変更できる環境にある。それだけに当事者は慎重にならざるを得ないと言える。
当事者が自身の社会で生きやすいように、例外的に性別変更の取り消しができるような法律の環境整備も必要ではないか。
[GID info編集部]