性同一性障害者家庭訴訟、「男」になった「元女」が司法に問う「家族の形」とは

性同一性障害者家庭訴訟、「男」になった「元女」が司法に問う「家族の形」とは

[記事ソース:] 2013年5月3日

 性差別か、法の限界か。性同一性障害で性別を女性から変えた大阪府東大阪市の会社員の男性(30)が4月、「第三者の精子による人工授精」(AID)で妻(31)との間に生まれた次男(生後11カ月)との親子関係の確認を求める訴訟を大阪家裁に起こした。会社員側は「血縁関係にこだわらず、親子と認められるべきだ」と主張。会社員を父と認めなかった自治体側は「法律上の親子ではない」との姿勢を崩さない。今回のケースは、出生届を見ただけでは自治体は「血のつながり」が判別できない、ということが背景にある。会社員の場合は戸籍に性別を変更したという“生殖能力のない証拠”があったためだ。一緒に暮らしている実態をどう判断するか。裁判所の示す「家族の形」が注目される。

性別変更という「証拠」

 「一般的な夫婦の場合、第三者の精子で生まれた子供であっても親子関係が認められる。自分が認められないのは、性同一性障害者に対する差別としか思えない」

 4月17日、家裁への提訴後に大阪市内で記者会見した会社員は、戸籍を扱う行政の対応を批判した。

 訴状などによると、提訴するに至った経緯はこうだ。

 会社員は平成20年3月、性同一性障害特例法に基づき、性別を女性から男性に変更する審判を家裁で受け、4月に妻と結婚。AIDにより21年11月に長男、24年5月に次男が生まれた。

 問題は出生届を提出する際に起きた。

 6月、正式な夫婦間の子供(嫡出子)として、次男を本籍地の東京都新宿区に届け出たが、区は会社員に生殖能力がないことを理由に父と認めず、戸籍の父親欄を空白にした。

 一般的に、出生届では父子の血のつながりが判別できないため、男性側に不妊の原因がある夫婦がAIDで授かった子供の出生届を提出した際、AIDかどうかは分からないため、自治体は親子として扱っている。

 ところが今回のケースでは、戸籍に会社員が性別変更をした事実が記載されていた。「動かぬ証拠」というわけだ。

出生届を受けた新宿区は「次男はAIDによる子供であって嫡出子ではない」として、戸籍に父親の名前を明記しなかった。

 会社員側は、妻とは法律にのっとった結婚をしており、次男と血のつながりがなくても「妻が婚姻中に妊娠した子供は夫の子と推定する」との民法772条の規定を適用すべきだと主張。さらに、不妊の男性とAIDによる子が親子と認められているのに、それと異なる扱いをされるのは、性別などによる差別を禁じた憲法14条1項に違反するとしている。

長男も子供と認められず

 会社員は今回の提訴に踏み切る前に、すでに長男との関係をめぐって新宿区と争っている。

 昨年1月、長男を嫡出子として出生届を新宿区に提出した際、区は次男のときと同様に「AIDによる子供」との理由で未婚の男女間の子(婚外子)として扱い、戸籍の父親欄を空白にした。会社員と妻は昨年3月、父親を明記するよう戸籍の訂正許可を求めて、東京家裁に審判を申し立てた。

 区側は審判で、性別変更した会社員と、AIDによって生まれた長男との関係について「民法772条はAIDで生まれた子を想定していない」とした上で「学説上も十分な議論が尽くされておらず、法律上の親子として扱うことはできない」と主張した。

 会社員側は、不妊の男性とAIDで授かった子との間では親子関係が認められ、不公平だと批判したが、東京家裁は昨年10月、「区の対応は性同一性障害で男性となった夫に生殖能力がないという客観的事実に基づいており、差別ではない」と申し立てを却下。東京高裁も棄却し、現在は最高裁で争われている。

被告は次男、異例の提訴

 そして今回、会社員は親子関係の訴訟を起こすに当たり、被告を次男とした。長男と同様の申し立てを起こしても退けられる可能性があるためだ。

 訴訟は紛争を抱えている当事者同士が争うものが多く、意外な手段。しかし、男性の代理人弁護士によると、親子などの身分関係に絡む訴訟では、たとえ当事者同士に争いがなくても、裁判所が原告側の請求をそのまま認めるのではなく、証拠を検討して独自に判断を示すことになる。会社員側も、裁判所に親子関係を直接判断してもらうのが狙いだ。

 今回の訴訟で親子関係を認める判決が確定すれば、戸籍法に基づき、戸籍を訂正することができる。

 類似の事例では、中部地方で同様に性同一性障害のため性別を変えた男性が今年2月、AIDで授かった長男の戸籍訂正を家裁に申し立てている。

 長男の出生届は21年にいったん受理され、この男性を父親とする嫡出子と認められたが、自治体側が昨年になって、男性に生殖能力がないことを理由に父親の欄を空白にした。

「家族の実態」か血縁か

 今回の会社員の申し立てに関連し、東京家裁は特別養子縁組で子供の権利を保護する方法もあると指摘した。しかし、男性は「なぜわざわざ養子縁組をしなくてはいけないのか。親子なのだから、その必要性がない」と一蹴する。

 立命館大の二宮周平教授(家族法)は「今回の訴訟では会社員が次男を自分の子供と認めている」とした上で、「裁判所は血縁関係にこだわるのではなく、共同生活の実態に照らして親子と認めるべきだ。親子とは何か、家族の実態が問われる裁判になるだろう」と話す。

 大阪家裁に提訴した会社員は記者会見で、自らを「僕」と名乗った上で、父親としての苦しみを打ち明けた。

 「次男は誰がパパ、ママかを認識しています。ハイハイで、満面の笑みを浮かべて寄ってきます。僕がこの子の父親でなければ、どんな人が父親ですか。子供のことを考えるなら、どうするのが一番いいのか。裁判官にも分かってもらいたい」

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